研究内容
Research
素粒子の標準模型
The Standard Model
物質はどんどん細かくしていくともうこれ以上細かくできない粒子”素粒子”にたどりつきます。
つまり素粒子はこの宇宙を構成する根本的な要素になりますが、一体素粒子は何種類あって、それらの間にはどのような相互作用が働いているのでしょうか?
これまで人類は右図のような17種類の素粒子を仮定すると現在の宇宙が完成するのではというモデルを作り、さまざまな実験を高い精度で説明することができました。
この枠組みを素粒子の標準模型と呼んでいます。
ではこの標準模型はこの宇宙が誕生してから今に至るまで全ての現象を説明できる究極の理論でしょうか?
実際のところ標準模型が説明できていない現象は多く、むしろ致命的な問題を抱えていたりしていてまだまだ完璧な理論ではありません。
実験を通して標準模型を検証し、新物理の兆候を日々探しているのが今日の素粒子実験分野です。
Elementary particles are fundamental elements that consist of matters in this universe.
How many elementary particles exist in this universe, and how do these particles interact with each other?
The model that considers 17 particles of the right figure is called the Standard Model(SM) of elementary particle physics.
Is the SM ultimate theory?
There are many problems that the SM can not explain, and the SM is not a perfect theory.
Elementary particle experiments test the SM and explore indications of Beyond SM.
標準模型が抱える未解決問題
Unsolved problems of the Standard Model
素粒子物理学で電子のような素粒子には重さなどは一緒だけど、電荷だけが反対のペアになる粒子(反粒子)がいることが理論的・実験的にわかっています。
粒子と反粒子は常にペアで生成され、ペアで消滅します。つまり、何もなかったところから宇宙が誕生してすぐの時は粒子と反粒子が等量生成されたはずです。しかし、粒子と反粒子は対消滅もできるので等量あるとみんな消えてしまってこの宇宙は空っぽになるはずです。もちろん今の宇宙はそうではなく、物質があって私たちの体も存在します。
つまり、この宇宙は"物質"が極めて多く、反物質と呼ばれるものは非常に少ない、物質優勢な宇宙です。どのようにして今の物質優勢宇宙ができたのか、その起源は未だよくわかっていません。
1967年にSakharovによって物質優勢宇宙を作るために必要な3つの条件が提示され、その1つが粒子と反粒子の間の性質の違い(CP対称性の破れ)です。
実際、Belle実験によってクォークセクターにおけるCP対称性の破れが観測されましたが、現在の物質-反物質のアンバランスを説明できるほどに大きな破れではありませんでした。
そこでニュートリノという別の素粒子に白羽の矢が立ちます。ニュートリノはまだよくわかっていない部分があり、そのため場合によってはクォークセクターよりも1000倍ほど大きなCPの破れがあるかもしれません。
そのほかにも標準模型には
-
ニュートリノの質量が他の素粒子に比べて
10万分の1ほどしかないのはなぜか? -
宇宙観測によって既知の物質は5%ほどしかなく、
残りの95%は暗黒物質・暗黒エネルギーで満たされていることがわかった。その正体とは? -
この宇宙の真空は安定か?
それとも今の真空状態は準安定で、もっと安定な状態があるといつか消えてしまうのか? -
電磁気力・弱い力・強い力・重力は実は初期宇宙では一つの力だった。電磁気力・弱い力を統一的に扱う理論(電弱理論)は完成している。
次は強い力の統一(大統一理論)だが、どうやる? -
陽子は安定か?
それともいつか他の粒子に崩壊するのか?
もし安定でなければこの宇宙もいつか崩壊する...? -
標準模型には重力が含まれていないが、
重力も組み込んだ究極の理論とはどういうものか?
など、多くの未解決問題が残されています。
現在素粒子の性質の精密測定や、新粒子探索、宇宙観測などを通してこれらの疑問を解決すべく研究が続けられています。
素粒子の標準模型 (HIGGSTANより)
素粒子はまず物質を作る粒子として、クォークとレプトンの大きく2つがあります(強い相互作用という力のやりとりをする粒子がクォークに分類されます)。
またこれらの物質粒子はゲージ粒子という素粒子をキャッチボールすることによって電磁気力などの力が働きます。
またヒッグス粒子は各素粒子に質量を与える役割をもった粒子です。
研究テーマ1
Theme 1
ILCにおける物理解析
「質量」はどこからきたのかー
2012年にCERN(欧州原子核研究所)の大型ハドロン加速器LHCでヒッグス粒子が発見されたことで人類の質量に対する理解はまた一歩前身しました。
しかし質量に関する謎はまだあります。
例えばクォークと呼ばれる素粒子は6種類ありますが、各質量値はバラバラでそれらの間には約1万倍の質量格差があります。
なぜこのような質量格差があるのか標準模型は説明できませんが、実は初期宇宙ではみんな同じ質量を持っていて、宇宙が冷める中で今のような形になったのではないかというアイディアがあります。
実際ボトムクォークとタウレプトン(パラメータによってはトップクォークも)の質量値がGUTスケールと呼ばれる高エネルギー領域で同じになる(統一される)新物理モデル(SUSY GUT etc...)が提案されています。
現在の標準模型と新物理の可能性を検証するために、私の研究では国際リニアコライダー(ILC)を用いてボトムクォーク対生成事象をシミュレーションし、250GeV ILCではどれくらいの精度で質量測定ができるかを見積もりました。
(ILCをもっと知りたい方はコチラも見てみてください)
Physics Analysis at ILC
What is the origin of "mass"?
Higgs boson was revealed at LHC(Large Hadron Collider) of CERN in 2012, and our understanding of mass progressed thanks to it.
However, there are many remains mysteries of mass.
For example, why each quark mass different, and why is there a large mass disparity of ~10,000 between them?
The SM can not explain this problem, but recently, the following idea has been proposed; each particle has the same mass in the earlier universe, and they separated into current values with the universe getting cool.
Actually, there are some new physics models(SUSY GUT...) that predict mass unification of bottom quark and tau lepton (and top quark also in some parameter configuration) at the GUT energy scale.
In order to test the current SM and to verify the feasibility of new physics, I simulated bottom quark pair production at the International Linear Collider(ILC) and estimate the precision of bottom quark mass measurement at ILC 250GeV in my study.
ILCの全体イメージ (ILC TDR Volume 1より)
電子と陽電子という素粒子を電磁場で高エネルギーになるまで加速させて衝突させることでヒッグス粒子をはじめとするさまざまな粒子を生成・検出しその性質を精密に調べることができます。
ILDでのイベントの様子 (ILC event examples with ILD simulationより)
衝突させることで素粒子どうしが反応を起こし、大量の粒子を生成します。
それらの粒子はILD(International Large Detector)検出器で検出されます。
この図はZボゾンとヒッグス粒子が生成されるイベントの様子です。
ボトムクォークとタウレプトンの質量のエネルギー依存性
(arXiv:1201.4412 [hep-ph] Figure.1より)
横軸がエネルギー、縦軸が質量(正確にはYukawa結合)になっていて、青線はボトムクォーク、黒線はタウレプトンの質量値の理論的な振る舞いを示しています。高エネルギー領域では赤丸をつけたところのように質量が統一されることがわかります。
T2K実験
ニュートリノという素粒子は1950年代に初めて発見されましたが、その性質はまだ謎に包まれています。
中でもニュートリノのCP対称性は破れているのかどうかというのは大きな問題で、もし対称性の破れが観測されるとなぜこの宇宙に反物質が極端に少なく物質が優勢になっているのかという現代物理学の未解決問題にアプローチすることができます。
T2K実験はニュートリノ振動という現象を通してCP対称性の破れをはじめとする問題の解明を試みる実験です。茨城県 東海村のJ-PARCで加速された陽子からニュートリノビームを生成、295 km離れた岐阜県 神岡のスーパーカミオカンデ検出器(SK)で検出します。
2023年9月現在、データは約2σ(~95%)の統計的信頼度で最大のCP対称性の破れを示唆していますが、3σ以上でのCP対称性の破れの測定を目指しています。
(T2Kをもっと知りたい方はコチラも見てみてください)
T2K experiment
Neutrinos are elementary particles that have some mysteries.
CP of neutrino is one of the big problems, and if significant CP violation is observed for neutrinos, it becomes a key for approaching the asymmetry of matter-antimatter in this universe.
T2K is an experiment that can approach opening questions such as neutrino CP Violation through observation of neutrino oscillation.
Neutrino beams are generated from protons accelerated at J-PARC in Tokai, Ibaraki, and detected at the Super-Kamiokande (SK) detector in Kamioka, Gifu, 295 km away.
As of September 2023, the data implies maximum CP symmetry breaking at a statistical confidence level of about 2σ (~95%), but we aim to measure CP symmetry breaking at 3σ or better.
(To learn more about T2K, click here to see more)